BECK(2010)

ようやく観たよ。

「BECK」 通常版 [DVD]

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■感想

とりあえず、楽しめなかった。
駄目だった理由っぽいのはいくつも思い当たるけど、一つは原作のエピソードを節操なく使いすぎなんじゃないかなぁ。もちろん省かれてもいたけど、全体の流れが見えないままエピソードだけがガチャガチャ積み上がっていった印象が強かった。リアルな部分と漫画的な部分とご都合主義な部分とファンタジーな部分も融和することなくゴチャ混ぜになってて、リアルでない部分がかなり観るに堪えないことになってたりもした。
その結果もう1つの欠点として、BECKのアクの強い側面がほとんど難点として露出してしまってたように思う。原作はよく揶揄されてる通り、ロッキングオンとかで好んで語られてたような類のある種の原理主義が作品を貫いてて、それらに演出の力で説得力を持たせないとかなり厳しいことになるように思うんだけど、この映画では前述の通りエピソードだけが積み上がっていって流れらしい流れもないし、増してや原作が称揚しているような価値観を肯定する雰囲気なんてまるでないから、例えばダイブリのマットがエイジのギターを焼いてコユキをステージに上げるシーンとか、格好良く見えないんだよね*1。後述することだけどコユキの歌も流れないからコユキがそうしてまでフィーチャーされるに足る存在だっていう説得力もなくて、「何か良く分からないけど主人公が素行の悪いビッグネームに贔屓されてる」って印象にしかならない。コユキが学校でダイブリの曲を流すシーンも割とスレスレで、最初は「ぅゎぁ、ロックな行動(笑)だ」って印象になりかけた……ってかほとんどなった。その後コユキが音楽に聴き入るシーンで、辛うじてそれがコユキが本能的に求めた行為だったって認識できたけど。
で、最大の欠点が言わずもがなのコユキエアボーカル。原作者の意向らしいとかそんな話はどうでもよくて、真帆の前で歌う最初の該当シーン以外、コユキの歌うシーンがまるで観るに堪えなかった。他の演奏は直前までリアルにそこにあるのに、いきなり妙な音が入ってきて、なんか無意味にリラクゼーション的な映像まで差し込まれて、シーンによっては全然違う音楽まで流れ出してもう何がなんだか。おまけに反応も極端なもんだからもう白々しいったらない。もちろん、コユキの歌声が凄いと表現しようとしているらしいことは頭では理解できるけど、そう実感できたかというと、できなかった。
漫画でコユキの歌が音楽としての実体を持たなくても許されたのは単に漫画がそういうリアリティに乏しいメディアだからで、実写映像に置き換える以上はそこには不完全だろうが実体が伴わないと直感的に感動できんと思うのよね。
あと細かいところでは、作中バンドと関係ない音楽も雰囲気壊してた。オープニングのコユキが「あの男に出会うまでは」つって竜介の画が出るところで音楽がレッチリってのもどうかと思うし、BECKの演奏と共に話が終わったのにエンディングテーマがオアシスってのも、急に本編全体が狭い世界の話にすぎなかったような印象になってきて酷いモンだった。
良かった点も挙げとこう。
弘美とか兵藤周りとか一部を除けば、役者に違和感を抱くことは特になかった。BECKのメンバー全員よかったと思うし、千葉は特によかった。原作から抜け出てきたようだ。
その千葉が歌ってるからちゃんとボーカルもあるBECKの楽曲“EVOLUTION”は、映画のトリに相応しい燃えられる感じに仕上がってた。本当にトリにすればよかったのに。
フリースタイルバトルも割とちゃんとしてたと思う。ってこれも千葉だね。いや、千葉以外もちゃんとしてたと思うけど。
楽器演奏はほとんどアテフリなわけだけど、たまに「おや?」と思うシーンはあれどさほど気にならずに見られた。
まあ、こんなとこ? 最終的にはあまり楽しめなかった映画だったよ、繰り返しになるけど。

■“OUT OF THE HOLE”→“MOON BEAMS”→“BOY”


ところで、原作でいえば“OUT OF THE HOLE”に当たる映画中の楽曲“MOON BEAMS”の原曲であるSPANK PAGEの“BOY”がここで聴ける。
……本編でMOON BEAMS(のカラオケ)を聴いてる時も思ったけど、もうちょっとスケール感的なものがほしい感がなくもなく? この曲自体は悪くないとは思うけど。
どっちかというとアニメ版の“SLIP OUT”の方が……と思ったけどアレはあれでちょっとチャチイか……どんな曲がよかったんだ、俺。

*1:もちろん、シーンの内容自体はドン引きする方が正解なんだけど、原作ではそれは格好良いシーンとして描かれてるわけで、そうじゃなかったら何のためにあるか分からんシーンでもあるわけで、ねぇ。