ダークナイトの感想〜善意の応酬編〜

続けるかも分からないのに「編」とかつけてみるテスト。
2008年に公開されたバットマンシリーズ最新作の映画「ダークナイト」。DVDでようやく観る事ができたんだけど、あまりに面白いんでなんか感想書きたくなった。
今回は「善意の応酬編」ということで、ダークナイトで悪=ジョーカーから狙い撃ちにされる善意についてツラツラと書こうかと思ふ。

前提として

俺は映画そんなに観ないし、バットマンシリーズ作品自体これが初。前作である「バットマンビギンス」ですら観てない。どんだけだよ。

バットマンの善意

バットマンは「悪を叩きのめすが殺しはしない」正義のヒーロー。自分の行為が街を平和にすると信じて戦い、目的のためには手段を選ばない。
バットマンが敵視する「悪」とは人に仇なす悪意であり、違法行為と必ずしもイコールではない。ので、悪を叩きのめすためなら自分の会社の資金は横領するし、不法侵入だって働くし、公共物だろうが罪もない一般市民の所有物だろうが構わず吹っ飛ばすし、どう考えても違法な改造車両にまたがり盗聴暴力等々なんでもござれの大活躍を繰り広げる。
ただ、自分のやり方が最善だとは(当然)思っていないようで、法に従い白日の下で堂々と善を行なう事のできるハービー・デントが現れると、街の正義を託して引退しようとしたりする。
また、最初に観た時は気付かなかったけど、映画終盤までバットマンには覚悟が足りていない。デントに託すとは言いつつ引退の直接の動機になったのは市民に憎まれることだったし、レイチェルとの幸せが始まると信じていたからでもあるし、デントかレイチェルかの死の二択ではレイチェルを選んでしまう(そしてデントを掴まされる)。執事のアルフレッドはバットマンに「バットマンなら耐えるべき」「バットマンなら人には出来ない決断が出来る(べき)」と言うが、結局どちらも実行できなかった。
しかし、ジョーカーやデント(トゥーフェイス)との対峙を経て、作中最後の最後でバットマンは覚悟を固める。人々と自分の希望であったデントをその手に掛け、罪もない5人を殺害したという事実無根の汚名、憎まれ役を引き受ける。直前のシーンで、市民は一線を越えないという善意を見せたが、その裏でバットマンは一線を越えるという善意を発揮する。
バットマンはコインの行方を待たずにデントに飛び掛かった。結果は偶然にも表だったけど、コインの裏が間違ってるんじゃなくてコインの結果という無秩序に委ねることが間違っているのだから、結果を待つ必要はなかった。ただ、正直なところ、コイントス=運否天賦=混沌=無秩序までは分かるけど、それが善とどう対応するのかはよく分からんかった。それ言ったら、そもそもジョーカーのあの説得でデントがあんなスタイルに目覚めるのも分からんけど。
何にせよ、バットマンは覚悟を決めた。バットマンの活躍は始まったばかりだ! 第一部完!
……なんか次作で背骨へし折られるという噂があるけれども。

■ゴードンの善意

ゴードンは、作中で最初に「善意は必ずしも潔癖ではいられない」実例として、マフィアと戦うため、汚職を働いている(この時点でマフィアと通じてるって分かってたっけ……?)部下を断罪できないという事情を披露してくれる。
まぁ、それ以降はバットマンのよき理解者として作中での役割を終えるわけだけど。

■ハービー・デントの善意

ダークナイトで最も注目すべき善意として描かれるのがハービー・デント。選挙で検事に選ばれ、法と白日の下に顔を曝して悪と戦うという立場の潔癖さに加え、暴力に怯まない強さとバットマンへの理解(実は善意とはあんま関係ないけど、好印象なのはこれも大きいよね)を持ち、おまけに美形! ちくしょう! 確かに希望を持たせてくれそうな顔してやがる!><
一方で、実は目的のためには手段を選ばない裏の側面も持つ。ジョーカーの手下から情報を引き出すため、コイントスで裏が出たら殺すと脅して自白を迫る。バットマンに共感するのにはこの裏の側面が絡んでるのかもなー。
この時使われるコインはデントの宝物であり、両方が表。コインに委ねているようでいて実は全ての結果は自分で決断し、自分で引き受けるのがデントの信念だった。……あれ、このコインでレイチェルから仕事とるのズルくね?
そんなデントに転機が訪れる。監禁され、レイチェルと自分のどちらかだけをバットマンが助けられる、という運否天賦の状況を強制され、レイチェルを失う。この時、レイチェルに預けていたコインの片面が傷んで「裏」が生まれ、病院ではジョーカーに唆され、手段を選ばない裏の側面を表面化させ、公平さに拘り自他の運命をコインに委ねる「トゥーフェイス」と化してしまう。
バットマンは「デントが最も高潔だった」と言う。確かに検事として最も潔癖に戦える立場にいたのはデントだし、その覚悟もあった。しかし、一方では隠れて脅迫という手段にも打って出る面を持っていた。自分かレイチェルかの二択でレイチェルが選ばれる事を心から望む善意を持っていたが、それはデントの善意がレイチェルの存在に依存していることの裏返しでもあった。
残念ながらバットマンの期待に沿える人物ではなかったんじゃなかろうか。

■リースの善意

リースっていうのは、バットマンブルース・ウェインの会社の資金がバットマンの装備開発に不正に流用されている事を調べ上げ、年間1000万ドルの大金を死ぬまで脅し取ろうとした人。
どこが善意やねんって話だけど、いやいや、フォックスに「街の為を思って丸腰で戦う市民を脅してまでお金がほしいの?」とか言われたくらいであっさり引き下がるのは、彼なりの良心の証だろうよー。あれ良いシーンよね。*1
その後、デントが入院しジョーカーが野に放たれたのを受けて、リースは再び「バットマンの正体」というカードを取り出す。多分、この行為は最後のフェリーのシーンでスイッチを押す事に対応する。確かにそれで市民は安全になる可能性があるけど、ジョーカーに屈する形でそれをしていいのか、と。また、ジョーカーの気変わりの結果、市民の一部がリースを殺そうとした行為もフェリーのシーンに対応する。結果が出なかっただけで、市民は二度ジョーカーに敗れている。
最終的に、リースはバットマン=ウェインの善意に救われて気まずい表情で退場する。

■市民の善意

ダークナイトにおいて、市民の善意は最も曖昧で朧なものとして描かれる。犯罪者がバットマンを恐れる事による平和を甘受していたが、ジョーカーが「バットマンが正体を現すまで毎日人殺すよ」と言ったらあっさりバットマンを切り捨てようとした。ジョーカーが「リースを殺さないと病院を爆破するよ」と言ったらあっさりリースの元へ殺到した。ジョーカーが「早く向こうのフェリーを爆破しないとどのみち爆死するよ」と言ったらあっさり多数決で爆破を決めた。
そして、ようやくジョーカーに屈しない決断をしたと思ったら、それはデントの存在に依るものだと看破された。
「お前らの善意って適当だよね」と言われ続けるのが市民の役割であり、観客の役割でもある。

■ジョーカーの善意

あるわけないやん。

*1:追記:どっかで「夜な夜な悪人をぶん殴って回るような人を脅しちゃって大丈夫? 頑張ってね」と脅されてビビった説を見かけてそんな気がしてきた……。