ウォッチメン(Watchmen)(2009)

【085/100】

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

ウォッチメン スペシャル・コレクターズ・エディション [DVD]

微妙にネタバレあります。
かつて覆面ヒーローが存在し、現在では禁止されている架空の90年代アメリカを舞台に、元覆面ヒーロー・コメディアンが殺され、現役覆面ヒーロー・ロールシャッハがその裏の陰謀を(あるのかないのかも分からないまま)追う的な話。「もし覆面ヒーローが実在したら」という思考実験的な要素があるようで、元覆面ヒーロー達の生々しい現在や過去、そしてその周囲を取り巻く社会がリアルかつ物凄い情報量で描写されている。
画面的にも「晴れた昼なんて描写されてたっけ?」と思うほど陰鬱な雰囲気ではあるけど、一方でボブディランの「時代は変わる」やらS&Gの「サウンド・オブ・サイレンス」やら、要所で挟まる懐メロ挿入歌がある種作中の出来事を夢想のようにも思わせて、一方で現実の流行歌である以上現実ともリンクするわけで、独特の空気になっていてそこはたまらんです。
ヒーローたちも、どうやら原作では本当に覆面しただけの人間らしいんだけど、映画ではそう呼ぶにはやや強く設定されていて*1、暴れるシーンが見応えあるものになっている*2と共にそれが映画全体のテーマへの前振りにもなっていたりする。
物語は、最終的に先述の「陰謀」が存在し、それが「覆面ヒーロー」より遥かに上位の「世界救済」として描かれることで、「覆面ヒーロー」という概念をとことんまで矮小化してみせる。そして、そこで終わる。
伝聞情報だけど、原作は違うようだ。その「世界救済」すら覆面ヒーロー同様に「個人の勝手で行なわれた」「狭い視野でしか物事が見えていない対症療法」に過ぎない、として見せることで、「人が人の手で人を救済する」という事そのものに疑問を呈してみせている、らしい。少なくとも映画と違う原作の結末に関する情報を読むとそう思える。映画でも、原作のその要素は完全になくなったわけではないけど、完全に形骸化している。
そのため、映画の主張として件の計画を疑問視しているように思えず、最後にロールシャッハの手記が出てきてもそれほど痛快に思えない。
その上、計画を遂行するのは覆面ヒーロー中最も強く賢明で現実が見えていて社会的に成功したイケメンさんであり、彼の計画に太鼓判を押すのは作中唯一の全知全能に近い本物のヒーロー・Dr.マンハッタンであり、とくると、それなんてドリーム小説としか思えない。
途中まで面白かっただけにそこが残念でならないのであった。まる。バットマンビギンズは途中からしか観られない映画だけど、ウォッチメンは途中までしか観られない。

*1:素手パンチで壁壊したり、十何人ものチンピラを二人で素手で圧倒したりする。

*2:300の監督だけに、スローモーションと早回しを多用したメリハリのあるアクションシーンになってる。個人的にはダークナイトのアクションの方が好きだけど、こちらではずっと派手に活躍してくれるので良し悪し。