バットマン ゴッサムナイト(Batman: Gotham Knight)(2008)

【07/10】リンクはスペシャルエディションだけど俺が買ったのは通常版。吹替版推奨。

バットマン ゴッサムナイト スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]

バットマン ゴッサムナイト スペシャル・エディション (2枚組) [DVD]

映画「バットマン ビギンズ」から「ダークナイト」までの間の時間軸を描いたらしい、日本のアニメスタジオによる6本の短編アニメからなるオムニバス。
各話ごとに監督もスタジオも異なっており、それによって作風も異なったものになっている。

【★★★★★】1. 俺たちのスゴい話(制作:STUDIO 4℃ 監督:西見祥示郎

市民にとってのバットマンの在り方が描かれている。一番面白いのはこの話。

ゴッサムに暮らすスケボー少年ら4人が、遊び場でたむろして各々のバットマン目撃談を披露する。
それぞれ、バットマン影の化け物だっただの巨大蝙蝠だっただのロボットだっただのと好き勝手に証言するが、戦っていたとする強盗の特徴は共通しており、時系列も短時間に連続しているようで、一繋ぎの事件と思われた。
残る1人が「俺だけ見てないのか」と愚痴った瞬間、遊び場の壁を破って蝙蝠風の覆面男と話に出ていた強盗が現れる。
強盗は煙幕を投げ、エピソードを披露した3人は慌てて逃げるが、最後の少年は煙の中立ち尽くす。そして、強盗を探すバットマンの背後をとって迫る強盗に気付くと、手に持ったスケートボードで殴り倒した。バットマンは少年に謝意を述べると、強盗を抱えて煙の中去って行った――。

バットマンが都市伝説的に語られる様を自由すぎるくらい自由に描き倒した回想シーン(動きもいい!!)と、バットマンがフィクションの世界から飛び出してくるような感動のあるクライマックス、真実のバットマンは生身のヒーローだというテーマ、一番の【スゴい話】が「バットマンを助けた」ことだ、となるラストと、12分程度の中に面白さがギッシリ詰まった楽しすぎるエピソード。3人のエピソードが時間軸逆行順になってるのも地味に良い。
3人の話は誇張*1だったのか、活躍が人間離れしていた+非常時だった故の見間違えなのか、実際バットマンによく似たロボや怪生物や化物が強盗と戦ったのかは明らかにならないけど、そこから「今後もバットマンの存在はあやふやに語り継がれていくんだろうなぁ」とまたバットマンの在り方を思わされるのも面白い。
気になるのは、最後にバットマンが現れる場面で、悪人が出てくる時とバットマンが出てくる時でカメラの位置が逆になっているため、パッと見吹き飛ばされてきたのがバットマンだと勘違いして凄く弱そうに見えてしまうことくらいか。いや、これ結構地味に痛かったんだけど。

【★★☆☆☆】2. クロスファイア(制作:Production I.G 監督:東出太)

警察にとってのバットマンと、バットマンの強さ・格好良さが描かれている。それなり。

ゴードン警部補の部下であるアレンとラミレスは、ゴードンに脱走犯の護送を命じられる。バットマンが捕まえたものだ。ゴッサムには転属してやってきたアレンは、バットマンの小間使いのような警察の在り方に苛立ちを覚え、護送前後の車の中でそれをラミレスにぶつける。ゴッサムで育ったラミレスは運転を止めると、「バットマンによって街は変わってきている、それによって警察である自分を恥じずにいられる」と語る。
と、停めた車の周囲に敵対する二組のマフィアが銃を持って現れる。話題になっていた抗争の現場に偶然居合わせてしまったのだ。二人の車を挟んで意にも介さないまま銃撃戦を始める二組。片方がロケットランチャーを取り出し、あわや巻き込まれて爆死かと思われた刹那、逃げ遅れたアレンを助けてバットマンが現れる。
バットマンは銃を持ったマフィアをあっという間に制圧すると、アレン・ラミレスの二人を認めている旨発言して空へ消えた。

まぁ凄くぶっちゃけると「強くて格好良い上に、自分の存在を快く思わない警官をも『気骨がある』的に認める懐深いバットマンさんマジぱねぇっす!」という話であって中身は凄く薄い。一連の流れがあまりに型通りに思えるのも一因だろうか*2。とはいえ、ほんの短時間披露されるバットマンの活躍は実際格好良く描かれていて*3、そこは満足。ヒーロー物は本来こう楽しむもんだろ的な感じだろうか。
それにしても、ラミレスはバットマンをそんな風に思っていたのにダークナイトでは(r
タイトルの意味は、マフィアがやりあう際のシチュエーションと、アレン&ラミレスの対立のことかな?
絵柄は打って変わってリアル寄り……というかリアル頭身のややアメコミっぽい感じ。

【★★★☆☆】3. フィールドテスト(制作:ビィートレイン*4 監督:モリヲカヒロシ)

ブルースのバットマン観と、ゴッサムの悪人とバットマンの関係が描かれている。なかなか。

バットマンの装備を開発しているルーシャスは、ブルースに新技術を応用した防弾装置を渡す。
別の富豪とのゴルフで装置を使用し、人知れず相手のゴルフクラブを吹っ飛ばしたブルースは、バットマンとしての実戦でも装置を使ってみることにした。
抗争するマフィア二組の船を自動操縦でぶつけ、混乱に乗じて乗り込むと件の装置で銃弾を弾きながら一瞬でマフィアを制圧するバットマン。トップ二人を絞め上げ、しばらくは互いの縄張りに引き籠っているよう告げて了承させるが、その時背後からバットマンを狙う刺客が。その銃撃をまたも装置の力で凌いで刺客を制するバットマンだが、装置が弾いた銃弾はマフィアの一人を貫いていた。
マフィア達の非難を背に被弾した男を病院に届けるバットマン
翌日、ブルースはルーシャスに「自分がこの戦いに掛けるのは自分の命であって他人の命ではない」と告げ、防弾装置を封印するのだった。

内容より、ブルース・ウェインがスッキリイケメン優男と化した絵柄に批判が集中しそうな作品。が、そんなことより、音声解説にガッチャマン呼ばわりされたスッキリしすぎのバットスーツの方が問題だと思う。実際マスクのフォルムはガッチャマンっぽいし端的に言って格好悪い。観始めて早々にブルースの姿に拒否反応を示す理由は当然ブルースのデザインだろうけど、この作品を観終わった時「やっぱりブルースのデザインが受け付けない」と言われる理由の大半は実際にはバットマンのデザインにあるんじゃなかろうか。
話は分かり易いし、圧倒的な超パワーの持ち主でもないのに銃を持つ相手に対しても非殺を貫くバットマンの苦悩と決意を描いた良いエピソードだったように思う。
マフィアに対して縄張り提言するバットマン、それに苦笑いで同意してみせたり、バットマンを銃撃しておいて跳弾で被弾させられたことを責めるマフィアなど、「悪だからやっつける」「邪魔だから憎い」だけではない馴れ合いにも似た独特の付き合いを感じさせる描写も面白い。実際悪人殺さないしすぐ保釈とかされるから長期戦すぎてそんな空気にもなるよね。
あ、そういえば地味にアクションが前話以上にイマイチ。あと、6話の伏線になってる辺りが単独の話としては変。

【★★☆☆☆】闇の中で(制作:マッドハウス 監督:青木康浩)

バットマンヴィランの対決を描く。いまいち。

教会の枢機卿が怪物に誘拐された。バットマンは以前の事件で行方をくらましたスケアクロウの手引と見て地下道の調査に向かう。地下道には実行犯と思われる怪物……キラークロックの痕跡があり、ある程度進んだところでバットマンはキラークロックの襲撃を受ける。噛まれた際にスケアクロウ由来と思われる幻覚剤が体内に入り視界が歪むも、爆弾を用いてすんでのところでキラークロックを撃退するバットマン
幻覚に冒されながら更に進むと、スケアクロウとその部下(信仰者?)、そしてその手に掛かりそうな枢機卿が見つかる。バットマンはそこに乱入し、全員を素早く制圧すると枢機卿を連れて脱出。
地下道を出た先にはゴードンの乗ったヘリが来ており、枢機卿を収容しバットマンも乗せようとするが、バットマンはそれを拒んで飛び去って行った。

……中身ねぇ〜。というわけで、ほとんどアクションシーンを楽しむだけの話。
すなわちビジュアル勝負なわけだけど、バットマンが歯剥き出しで顔でかくて撫で肩でと3話の遥か上を行く格好悪さのため、そちらもイマイチ。動くとそこそこ格好良くなるけど、リアル系なアクションの割に人体が躍動する感じも薄く、たまに楽しめる動きがある以外は見所も多くない。鎌避けるシーンのスローモーションとかだっせーだっせー。
しかも最後飛び去る前の助走がどうみても内股
スケアクロウ・キラークロックと名のあるヴィランが初登場なので、そこだけ楽しむ感じだろうか。

【★★★★☆】克服できない痛み(制作:STUDIO 4℃ 監督:窪岡俊之

バットマンと痛みについて描かれている。面白い。

下水道の中を、銃弾で傷ついた姿で歩くバットマン。痛みに苦しみながら、過去のインドでの修行を思い出していた。
インドで医者手伝いの仕事などをしながら、修行開始を待つブルース。だが、蛇とマングースの賭博を眺めていたブルースにもたらされたのは「ブルースは我々に対して誠実でないので修行はつけられない」とする言伝だった。案内人は、代わりに修行をつけてくれそうな者としてカサンドラという女性を紹介する。
修行を続けていたある夜、カサンドラの元に、他所者のブルースに修行を付けていることを非難する男達が押しかける。一人がカサンドラに殴りかかるのを見て割り込むブルース。素手で男達をあっという間に追い返したブルースは、直後にカサンドラからここを去るよう告げられる。荷物を持って去るブルースに「あなたの痛みは克服することはできない、あなたの道を示すもの」と告げるカサンドラ
ルフレッドに迎えにくるよう連絡したバットマンは、身を預けていたゴミ山の中に拳銃を見つける。一心不乱にゴミ山から銃器を漁り続けるバットマン。アルフレッドが迎えに来た時、バットマンは両手にいっぱいの拳銃を抱えていて、手を差し出すよう言ったアルフレッドに「今は無理だ」と告げた。

深い……とイミフの境を漂うお話。どれくらいイミフかっていうと、最初バットマン姿のシーンの方が回想だと思ってしまったくらいイミフ。最後まで観ると逆だと分かるんだけど。
「銃はバットマンにとって直接の痛みの原因であると同時に街から排したい犯罪の象徴でもある*5。銃の痛み=犯罪の存在はバットマンの存在意義そのものであり、故に克服されることはない。最後の銃を抱えてアルフレッドの手を取れないバットマンの姿はその象徴」という感じに解釈したけどいかがなもんなんだろうか。正直、ちょっと考えればここまでは思いつくけど、ちょっとも考えるまでもなくここまで至れないと感心はしても感動はできない、と俺は思う。俺が悪いのか作劇が悪いのかはともかく。とはいえ、深い話には違いない。
現在の状況が「地下道で、帰る最中」と前話のラストに近く、作中明言はされていないが連続性を感じさせるの面白い。
バットマン ビギンズの感想でも書いたけど、あまりに本来の雰囲気と異なるロケーションなのは個人的にマイナス。アクションシーンは、少ないけど作画が綺麗で良い感じ。

【★★★★★】6. デッドショット(制作:マッドハウス 監督:Jong-Sik Nam)

バットマンと強力なヴィランとのタイマンを描いている。なかなか。

類稀な狙撃技術と装備で困難な暗殺を難なくこなす男・デッドショット。マフィアはデッドショットに、ゴードンの暗殺を依頼する。一方、依頼の情報を掴んだバットマンはアレンにその事を伝えると、解決に乗り出した。
デッドショットの居場所が掴めない中、ゴードンを乗せた車両が線路下に差し掛かった時、アルフレッドからの連絡で電車からの狙撃を予感したバットマンは電車脇を飛行しながら中を調べる。怪しい人物は見当たらないが、その時、反対車線からも電車が。デッドショットはそちらの車両からの狙撃を画策していたのだ。計画通りゴードンを狙撃するデッドショット。バットマンはその一発を弾くと、デッドショットを追って電車の上に飛び乗った。
電車はそのままトンネルに入り、デッドショットに風上に立たれ飛んで追う事もできなければ狭いために飛んで攪乱する事もできないバットマンは意を決してデッドショットに正面から駆け寄る。的もいいところのバットマンはデッドショットの銃弾を避けきれず、肩に被弾して転げ落ちた。
トドメを刺そうと下を確認するデッドショットの不意を突いて上から飛び掛かったバットマンは、放たれた数発の銃弾を避けて銃を破壊、デッドショットを追い詰める。身の危険を感じ、洗いざらい情報を吐いた上に「俺は仕事をしただけ」と見苦しく言い訳するデッドショットを殴って黙らせて事件解決。
屋敷で被弾した肩の治療を受けながら「この銃弾を止めるために戦ってきたのかも知れない」と言うブルースは、今夜もバットマンを呼ぶバットシグナルを見上げていた。

考えさせる作品やしっとりした作品の後に娯楽作で締める展開、俺はアリ派。
というわけで、最後の今作は「1話完結型テレビアニメ『バットマン』第○話……のショートバージョン」といった趣き。短い中で起承転結やアクションやテーマ性をキッチリ盛り込んだ手堅い作りになっている。
3話で装置を意図的に誤作動させた理由が伏線として回収されたり、5話でバットマンが大量の銃を抱えたラストを引き継いでのオープニングなど、ここにきて盛大にオムニバス6話を続き物と思わせる仕掛けが現れる。また、そのオープニングで銃の魅力を語るブルースも結構面白かった。
キャラデザがめちゃくちゃ濃ゆい*6けど、バットマンのデザインは一番格好良い。
誰にでも「6話観た時間、無駄じゃなかったな」と思わせるだろう安心のクロージング。

全体的な感想。

とりあえず日本語字幕が酷い。英語音声英語字幕の方がマシじゃないかってレベルで意味が分からない。ので、日本人が観るなら普通に吹替でいいと思う。ダークナイトのレジャーやベイルと違ってこの場合日も米も所詮は声優さんだし。
それはともかく、面白い話もあったし締めがいいからそれなりに満足感もあるんだけど、同時に「んー……こんなもん?」という感がなくもなく。第1話が飛びぬけて面白かった他は、総じてアクションがあまり良くなく、考えさせる話は分かり辛く、手堅い話はテレビアニメレベルで、OVAってこんなもんなのかと思った。
週一テレビアニメ以外でリアル寄りのアクションを見せるなら、映画スプリガン序盤のアクション程度のクオリティはガチで欲しいところ。第2話で見られた動きよりポーズ重視のアクションは俺には何の魅力もなかったし。
というわけで、「最低限楽しめた」というのが、バットマン ゴッサムナイト全体に対する感想。

*1:作中、「バットマンが強盗を斬殺した」と話して「バットマンが殺しをしないなんて誰でも知ってる」と突っ込まれるシーンがあり、誇張の可能性は仄めかされてはいる。

*2:アーカム精神病院の職員を患者と見紛うほど病的な風に描いた意図も不明だし、「っぽい」事やってるだけ感が全体的に強い。

*3:正直、アクションはやや古臭い所があってそれはいただけないけど……。

*4:プロダクションIGじゃなかったっけ……?

*5:両親の命を奪った――は今回は考える必要ないか。

*6:音声解説で「顎が出た新しいブルース像」とか言われてたし。