ウミガメのスープ

前回エントリに追記するはずが、物凄い日数サボってしまったので、新規に。
スローンとマクヘールの謎の物語』に収録されている数多の駄問と『ウミガメのスープ』の違い、『ウミガメのスープ』はなんで面白いの、的なことを書こうかと。
そもそも「『ウミガメのスープ』の方が他の問題より圧倒的に面白い」という認識自体が主観に過ぎないんだけど、出来るだけ思い入れだけにならないよう掘り下げたい。
というわけで。
以下、盛大に『ウミガメのスープ』ネタバレ。
とりあえず問題文再掲載。ちなみに、文面は前回適当に考えた。

ある日、男がレストランを訪れ、ウミガメのスープを注文し、一口食べた後、レストランを出て、自殺してしまった。
男は何故自殺してしまったのでしょう。

この問題が特に面白い理由は、以下の点にあると思う。

1. 問題文の事実と真相にかなりの距離があり、ただちに正解することができない

前回書いた通り。『スローンと(r』には、問題文だけ読めば正解可能な問題が多く存在する。
例えば「\400の切符を買う際、駅員に対して何も言わずに\1,000を払ったら、駅員が2枚の切符を渡してきた」問題。実際に正解かどうかは確認するまで分からないが(それゆえ、これはただの「不完全なクイズ」でしかない)、用意されている真相を最初から思い浮かべた人も少なくないだろう。
ウミガメのスープ』では、真相どころか、真相を構成するいくつかの事実のひとつですら、いきなり連想することは困難だ。そこには質疑応答でイメージを踏み固める余地があり、着実に進行する推理を楽しみやすくなっている。

2. しらみつぶし要素がほとんど存在しない

実のところ『ウミガメのスープ』にもまったくないではない。具体的には「男と新たな登場人物の関係」がそれに当たる。とはいえ、候補がそんなに多くないのであまり問題にはならないだろう。
『スローンと(r』では、このしらみつぶし要素の多い問題がちょくちょく散見される。前述の「切符」問題でも、他に思いついたアイデアを全て「No」で潰された挙句に真相に至った人も多いだろう。「王様が職人を処刑した」問題に至っては、確実に正解になりうる可能性が山のようにある(正解と同じ性質を持つ事象を大量に考えられるはずだ)。それらを「No」で片っ端から否定されなければならない構造になっている問題は、面白くない。
ウミガメのスープ』が優れているのは、基本的には筋道立った連想のみで真相に至れる点にある。

3. 真相に至るキーワードがほぼ全て含まれている

これは、2.のようなしらみつぶしを防いだり、想像の暴走による事故を防ぐために重要な要素になる。この場合、具体的には「『ウミ』ガメ」「食べる」「自殺→死ぬ」がそれに当たる。真相を知っていれば、これらのキーワードだけでも大まかに真相を記述できることが分かると思う。また、なかなか「食べる」機会のない「ウミガメ」、「食べる」と「死ぬ」の不可解な因果関係など、連想を誘発しやすい事実も多く含まれている。
ただでさえまともな問題が少ない水平思考パズルで、貴重な一問が事故でなくなるのは本当に厳しい。連想の材料がなければ、回答者は足がかりもなしにひたすら想像を膨らませるしかなく、結果として特に思い入れもなく真相の一端を思いつき、問題を終わらせてしまう場合も少なくない。(『ウミガメ』でも経験あり。いきなり「男は人肉を食べた?」ってどこから思いついたんだよ……orz)
キーワード以外にこういった事故を防ぐには、一度に多く考えさせない、そのために「〜は関係あるか?」などの足場作りの質問を重視する、などの手がある。
イデア勝負の問題ばかり出題して一度に多くを考えさせ、「〜は関係あるか?」をほとんど「A. 関係ない」を聞くためだけの形骸化した質問にした『スローンと(r』は死ねばいいと思うよ…………と思ったけど、「実際の質問は文中のワードを軸にしか行なえない」という質問形式自体は、事故を防ぐ一助にもなる悪くない方法だと思うので、とりあえず次作までは生きてよし。

4. 真相が面白い(劇的かつ妥当)

まぁ個人差あるだろうけど。『ウミガメのスープ』のミステリじみた全容、そっけない問題文や出題者の応答(YES or NO)からは掛け離れた悲惨な事実、そして「そりゃ自殺もするわ」と思わざるを得ない妥当さは、忘れられないインパクトを残す。
灯台の問題のように「だからどうしたの」としか言いようのない真相とはわけが違う。
真相が面白いといえば「地下室の扉」問題があるが、あれは2.のしらみつぶしに引っ掛かりまくった挙句、最後は1アイデアで正解することになるため、全体ではあまりよろしくないのが残念。

という感じで、『ウミガメのスープ』は面白い、と

『スローン(r』の続編には『ウミガメ』級の問題がたくさん入っていることを望みたいけど、同じ問題集使ってるなら無理か……。