「漫画でわかる絵の上達する人しない人」について。

漫画でわかる絵の上達する人しない人 他|やらおん!*1という記事の、表題記事で問題になってる絵について。
とりあえず、ブコメに↓のように書いた。

これ、作者が本当に言いたいのは「理屈っぽい奴はどうせ描くのが好きじゃなくて描きたいものもない奴。手も動かしてないに決まってる。上手くなるわけない」で、漫画内容と因果逆順だろ。ただの願望。姑息だなぁ。

まぁ、少なくとも今の時点ではこう思ってるわけだけど、何故こう思ったかについて書いてみたく。

■漫画の構成

この漫画の話の構成はこうなっている。

序. 最初に「前提」が提示される
「絵の上達する人」代表の「するひと」君と、「絵の上達しない人」代表の「しない」君について、最初にどのような人物かが説明されている。
  • するひと君:絵を描くのが好き+描きたいものがたくさんある
  • しない君:絵を描くのは好きじゃない+描きたいものも特にない+絵は上手くなりたい
破. 次に「途中経過」が提示される
するひと君としない君の、お絵かきライフの違いが描かれる。これは、「前提」を原因とする結果であり、その後彼らが「絵の上達する人」と「絵の上達しない人」に分かれてしまう「原因」でもある。
  • するひと君:夢中で絵を描いている
  • しない君:絵を描く気はなく、参考書とか読みだす。\ダリィ/
急. 最後に「結果」が提示される
↑の結果、するひと君としない君が「絵の上達する人」と「絵の上達しない人」に分かれた様が描かれている。
  • するひと君:上手くなった
  • しない君:上手くなってない
おまけ. 本編とあまり関係のないものが描かれている
絵を描いていない人が、絵を描いている人に「デッサンしろ」と言っていて、絵を描いている人はそれを疎ましく思っている様が描かれている。

■内容の要約

この漫画は、二つの因果を主張し、それらを結びつける三段論法である結論を導く流れになっている。

  • 因果1-1:絵を描くのが好きで、描きたいものがたくさんある人は、夢中で絵を描く。
  • 因果1-2:絵を描くのは好きでなく、描きたいものもなく、でも絵は上達したい人は、絵は描かず参考書を読み耽る。
  • 因果2-1:夢中で絵を描いた人は絵が上達する
  • 因果2-2:絵を描かず参考書を読み耽った人は絵が上達しない
  • 結論1:絵を描くのが好きで、描きたいものがたくさんある人は、絵が上達する
  • 結論2:絵を描くのが好きでなく、描きたいものもなく、でも絵は上達したい人は絵が上達しない

■感想:この漫画、変。

明らかに変である。

■変な理由1:「前提」(及び因果1)が余分

この漫画のタイトルは「まんがでわかる 絵が上達するひと しないひと」だが、結局描かれている「絵が上達しない」理由は「絵を描いたか、描かなかったか」だけ。
絵を描く量に差が付く理由は色々ある。忙しい人と暇な人、睡眠の長い人と短い人、体力のある人とない人……。そのいずれであっても、この漫画の理屈ならば上達に差は付く。つまり、素直に考えれば「前提」及びそこから描かれる「因果1」は丸々不要だ。
また、参考書のくだりも、関係があるようであまり関係がない。参考書を読んでいる時間は、この漫画の描写の限り「描いていない時間の一部」でしかないから。
では、何故「前提」が描かれたのか。

■変な理由2:しない君の「前提」が妙に多い。

例えば、進研ゼミの勧誘漫画(のテンプレ的な内容)を思い出して欲しい。物凄く極端に書くと、「進研ゼミを始めた→成績上がって志望校に入れた上に何故か交友関係や部活動も充実して超リア充となっているはずだ。言い換えれば「たかが進研ゼミを始めるだけのことで、ここまで生活は充実するよ」というのが大まかな内容になっている。
物事の因果をテーマに物語を描くのであれば、その原因となる違いは最小限に留めて描写し、結果は可能な限り誇張して描く事のが最も効果的であり、主張のための表現として自然だ。
さて、問題の漫画のバランスはそうはなっていない。進研ゼミに置き換えるならば「快活で人付き合いもよく勉強にも積極的なするひと君が進研ゼミを始めたら、内向的であんまり勉強しない上に進研ゼミもやっていないしない君より成績が上がった」となるほど「前提」の量が多い。
変だね。そりゃ差も付くわとしか言いようがないね。
なぜ、この漫画は、「前提」がやたら多いのか。

■変でない部分

前述の通り、変なのは「前提」なので、「前提」の絡まない因果2は特におかしくない。

■変な理由の答え

この漫画がこんなおかしな事になった理由は、変な理由2に書いた原理にあると思われる。

物事の因果をテーマに物語を描くのであれば、その原因となる違いは最小限に留めて描写し、結果は可能な限り誇張して描く事のが最も効果的であり、主張のための表現として自然だ。

つまりこの漫画、本当に主張したいのは実はやたらと量の多い「前提」の方だろうと思われる。「前提」は実は前提ではない。これを踏まえて、因果と結論を描き直してみる。

  • 因果1'-1:夢中で絵を描いている人は、描くのが好きで、描きたいものもたくさんある人「だろう」
  • 因果1'-2:絵を描かず参考書を読み耽っている人は、描くのが好きではなく、描きたいものもない人「だろう」
  • 因果2-1:夢中で絵を描いた人は、絵が上達する
  • 因果2-2:絵を描かず参考書を読み耽った人は、絵が上達しない

因果1'は原因と結果ではなく、観測された証拠と推理・推論の関係にあたる*2。悪く言えばレッテル貼りだ*3
じゃあ、この作者は実際には何を「観測」したのか。それがおまけに描かれている
最後の一コマ、前述の話の流れと半ば無関係に挿入されたimg絵スレの光景(イメージ)が、作者が実際に目撃したものだろう。
絵を描いてる人に絵を描いていない人が「デッサンしろ」と言っている。俺の論旨に都合よく言い換えると「参考書の知識をひけらかしている人がいる」。これが本当の前提だ。
これをさっきの因果に組み込んでまとめると、こうなる。この結論は俺の主張だから誇張するぜー。

Web上で参考書の知識をひけらかしている不快な人物は、参考書を読むばかりで絵なんかロクに描いていないに決まっており、つまりは描くのが好きでもなければ描きたいものもないのに上達したい欲だけはあるような人物であって、そんな人物の絵が上達するはずがない。

……あーらら。
まぁ口が悪いのは俺のせいだけど、要するに本当の意図は「Web上でデッサンデッサン言ってる人」へのレッテル貼りだ。体裁をそれっぽく整えてはみたものの、体裁からすれば余分な「前提」を、実はそれが本当の結論であるが故に省けなかったために、まぁここまで書いたようなことをわざわざ考えなくても絵面と裏腹な醜い意図が見え見えな作品に仕上がってしまっている。
原因と結果などない。本当は目の前の不快な相手にさっさとレッテルを貼りたかったのがこの漫画の正体だ。

■最後に

と思うんだけどどうでしょうね。

*1:やらおん、いつも……じゃないけど楽しませていただいています。

*2:こういうのなんつーんだっけ

*3:悪くっていうか、この漫画の意図がレッテル貼りなんだけど。