ミスト(The Mist)(2007)

【080/100】DVD鑑賞。

ミスト [DVD]

ミスト [DVD]

超ネタバレ注意。色で隠すけど。
突如霧に覆われ、その中で人々が謎の死を遂げるようになった街で、スーパーマーケットに半ば閉じ込められるように立て篭もった住人達の運命を描いたホラー映画。
霧によってハッキリ見えない「死の原因」の描写と、その中で恐怖し、混乱したり本性を曝け出す人々の行く末が大きな魅力だろうか。中盤までひたすら霧の向こうで行なわれる殺戮は、当然視覚的な情報は少ないながらも何かヤバイことが起きていることは的確に想像させるものだし、主人公が限りある情報と手段の中で絞り出す善意は空回りし、逆に恐慌した人々の心を如何にも打ちそうな狂気の沙汰が支配的になっていく様は、胃がキリキリさせられながらも、映画くらいでしか味わいたくない物を存分に味わわせてくれる。
で、まぁこの映画もこの映画で俺的には結構萎える点があって、映画の説明が↑で止まってるところから分かる通り評判の良い結末もそうなんだけど、順番に。
■1つ目。最初の「怪物」のCGがすっげーーーしょぼい。
フィクションってのはまぁ作り物だけど、没入だとか感情移入だとかそういったものによって作り物を超えた迫真の魅力を持つ事になるわけだ。それらは、迫真の演技だとか、優れた演出だとか、映像のリアリティとか、あるいは細かい編集だとかそういうもので表現していくわけだ。一方、「ああ、やっぱ作り物じゃん」と思わせる例えばあんまりなご都合展開とか作画崩壊とか出来の悪いイミテーションとかそういう物があると、観賞者を現実に引き戻して体験の質をワンランク落としてしまう。
でまぁ何が言いたいかっていうと、序盤で「死の原因」の最初のヒントとなるあの「触手」のCGがあまりに作り物臭くて、急にFF9か10のムービーでも観てるようなガッカリ気分になってしまった。予算? 予算なの? 後の「虫みたいなの」とかはあんまり気にならなかったんだけど、これからって時に大分興を削がれてしまった。
■2つ目。軍人が語る異変の正体に関する情報が微妙。
まぁ、軍人が語るだけあって「軍が、政府がやっちゃたのです、てへ」って話だったわけだけど、一体どこに「異世界*1」なんて単語を出す必要があったのか。
このシーンにはいくつも機能がある。一つ目は、「街が煙っぽいものに包まれ、罪もない市民が正体不明の輩に殺戮される原因は政府や軍が勝手にやったこと」という世界観の提示。まぁ短絡的に言って911よな。二つ目は、「市民が一見関係ありそうで実はあんまり関係ない短絡的な捌け口を見つけ、溜まった不満を過剰な形で吐き出す」という展開へのトリガー。あーあーあーあー最近あったねそんなの! ここまでは良い。三つ目、驚異の正体が「異世界の存在」だという設定の開陳。……ねぇ、何の意味があんの? マジで。「全くの正体不明」より「異世界の存在」とした方がマシな理由って一体何? 前述のこのシーンの機能を挙げるまでもなく、現実離れした状況を元に世界の現実の一端を描く物語になってるこの映画にとって、何の前向きな作用があったの? ミストという映画が持つ迫真のリアリティに冷や水を浴びせるようなファンタジーを闖入させただけだよね?
〜以下盛大にネタバレタイム〜
■3つ目。ラストの主人公の行動がイミフ。いや、意味は分かるけど。
この映画のラストは「数少ない味方からも幾人も犠牲を出しながら、ようやく状況打開への希望である自動車に乗り込んだ主人公一同が、自動車がガス欠になった事と途中あまりに巨大な怪物を見た事で希望を失い、主人公が無言で提案した拳銃での集団自殺に同意するも、残弾の都合で息子も含めて自分以外全員を射殺した主人公が怪物に殺されるために表に出てみれば、霧の向こうから現れたのは怪物を掃討して回っている戦車で、少し霧が晴れると怪物を普通に殺しまくる軍と無事に非難する人々の姿もあって、後ほんの一瞬待てば助かるはずだったことを知った主人公は絶望して終わる」というもの。「霧が隠していたのは怪物という絶望だけじゃなくて目の前の希望でもあった」という、実に気の利いた底意地の悪い展開なわけだけど、このラストを観た時「なんであそこであんな決断したの?」と疑問になってしまった。だって、必要があるからと危険な場所に飛び出して行って、実際味方からも犠牲を出しながらとりあえずの短期目標は達成していく、って展開はこれまでにもあったわけで、でかい怪物にしたって、序盤の「何故か上に引っ張られるロープ」の時点で存在は分かってたことじゃん。スケールは違うけど比較論に過ぎない。何メートル過ぎたら絶望するんよ。
どうしてあそこで急に潔く絶望しきってしまったのか、まるで分からなかった。
いや、どういうつもりかは分からないでもない。
それまではドラッグストアなり自動車なり、そこに辿り着けるかは不確定でも辿り着ければとりあえず縋れる具体的な藁があった。自動車が使い物にならなくなったあの時点ではそれがない。だから絶望した、のかもしれない。形のない希望に縋る勇気は主人公にはないなんて描写は全然なかったけどね!
また、それならせめて「怪物に殺されるくらいなら自ら命を絶った方がまだ救いになる」という描写が事前に伏線としてあればよいのだけど、それもない。
結局、これまで散々人々の状況や心情を描いてきた割に、最後の最後での主人公達の絶望と決断については「あぁ、こういう行動に出るってことはこういう気持ちなのね」と頭の中で逆算する以外に理解しようがなく、その結果決定的な不幸の陥られても「なんで我慢できなかったの」と思う他ないというのが俺のあのラストについての認識。
〜以上盛大にネタバレタイム〜
というわけで、唸らされるシーンや展開が多くある一方で、決して小さくない引っ掛かりも多く、満足できなかったというのが俺のこの映画への感想。だから傑作と呼ばれてるのを観るとどうしても首を傾げてしまう。

*1:違う言葉だったかも。